散るを踏み 残るを仰ぐ

いつか わかるときが くるだろう
ほんとうに
かなしいことだ

天庭

かなしいね
かなしいな
ゆかいだね
ゆかいだな
誰かが見ているよ
誰かが見ているね
こんにちは
こんにちは
さようなら
さようなら




―太陽の下で―

さあさ 皆様!
あすこをご覧あれ!

暗澹たる中天へと延びたる光の梯子に
群がる星屑たちが口々に叫んでいる

心を殺せ

―春のひと―

ふらりふらり
そ知らぬ顔して柴雲よりたれる

ひと

口唇をしづめて跳ねまわり
あうらや追い越せと果てる

ひと


四本足の動物たち
「満目の枯れ明かり!」

あなた 召しませ とこしなえ

―夏の人―

女性の形を模した仏様
「さあさあ ごゆるりとご覧あれ」と鬻く
梅が枝を突き刺して笑みなさり

男性の形を模した仏様
「ほらほら ここで生り」

様々な動物の頭を模した帽子をかぶる かわいらしい人々
「ふむふむ ここか」

ここに在り!

神仏が分かつ五臓と六腑を
舐めつ くくみつつ 眼下に広がる
濁流の岸を洗ひて安着

幸せかい

そうだろう

何も知らない

という幸せがそこにはある

―太陽の下で―

あかときは終に行く
もう帰してはくれぬ
爆ぜて

あ!

あっ!

天ぐらり!

絶景だ

あをみ 延びて 推し量る
行き会う星の間の深さ
追いかけていたはずの光華に追われ
迷子になる

寂滅を待つ 凍みた灯火を抱き
過ぐ明日を雲に託し流る
日輪にあくがれ
歪にうねる影絵
互の肝を抉り合い悦に浸る

―秋のひと―

光の梯子に群がり
嬌声をあげる星屑たちの間を
黒い点滅がすり抜けていく
やがて無数の大きな線上の糸遊になったそれは
羅を羽織りながら羽化をとげ
あはあはと大嘘を縛り付ける
天日の錘に絡みつきながら
その速度を上げ
灼熱の顔を覆い尽くしたのち
さらばえた影を引きずりながら
夜空と同化し 消えた

「啜り泣くひと」

ひゅ ひゅ ひゅるる〜

―冬のひと―

朔風は見え得ぬものを鳴らし
呼吸合わせをり

―「神は懈怠ないのです!」とほざくひと―

鉛色の霧をまといながら
濁液を垂らして連なるきららは
顎に念珠をこすりつけ

今か! 今か!

とまつさらの闇に
祓へと打ち込む!

かなしいな かなしいね
かなしいな かなしいね
かなしいな かなしいね

肩に降る銀のささやき


―子供たちへ―

猿ども
「あらあら こんなところに面映い源が!」

仏様
「おとこのこ おんなのこの秘め事さ」

世界中の動物たち
「あいやー あいやいやー」

満面で笑う
不揃いの虹は
多岐茫洋

―月の下で―

見ているか


ひととして
在りたくて
月見船に乗って
湖心へ向かうひとよ
見えるか 見えているか
天心の月はあまりにも遠すぎる

焼かれた瞼で見る漁火


―太陽の下で―


ひらひらと舞い落ちた
空の欠片が掌で燃えて
汚れた灰になり
風にのって
又 空へと昇る

光 あくがれの光
歪を物憂く見つめ合う
その火柱 よじれよじれて
夕陽の色欲りぬ

為すべきを為し
肝抉り身反らし
迷子の蛻掲げて笑う

どす黒く広がり
吹き溜まる縁に
何を聞き 何を伝えて 我行けり

貴様ら見えるか
あの天道の先で在り
妬心の業火に焼かれた手を
希望のたばしり落としては拾って
脇目もふらず 内蔵舐め合う様を

ほら 閃きよ
垣間見て其の上の
時代見届けぬ
消え残る星ひとつ置き

誰か教えておくれ
幸せは何処にある
光背のくづるるごとく
空が割れている

ひと思ふ故 曰くを踏む
星 泳ぎ 行く その先に


幸あれ


暗澹たる中天へと延びたる光の梯子に
群がる星屑たちが口々に叫ぶ

業火はいつでも貴様らの背中を焼いている



―ひとへ―


ねえみて 春がやってきて
草も木も花も歌っている
ねえみて 春がやってきて
みんな ここにいる

みんな赤い背中をしている

                          天庭にて

魚氷に上り 耀よひて

とても重くて

重くて暗い

泥の海のお話




嵶やかに泳ぐ
あさひに焦がれ

あまりにも深く
いとましき

ざわめき
あたもろとも
波にさらわれ

笑うものよ
悼むものよ
皆等しく
ひいわりと

断崖に沿って
だんぶと落ちて
珠に似た飛沫
かこちをり

その口より曰く
虹を吹いては

「昇るものよ 沈むものよ これが現実だ!」



還り散る

なんと つらいことだ
あまりにも つらいことだ

欲しいままに生貪る
緋色の珊瑚礁
そそり歌をのせて 侠霧
深く遠く鳴り

ああ 誰か光をくれ

彷徨うひと そぞろ泳ぐ
手を取り合い 泡と詠み
明日をつなぐ輪をくぐって

あまひに舞う 赤い雲に問う

一天の深きよ!

応えはない

泣き響むか 浮き沈むか

もうわかっているのだろう
もう気がついているのだろう

そうだ ここに光は来ない
永遠に だ

光は幻想だ

まやかしだ

なんと 馬鹿馬鹿しいことだ

夢を見てはいけない
夢を見るのは愚か者だ

ひとりで泳いでいけ
たったひとりで泳いでいくのだ
そしてひとりで果てるのがよい

ああ ささくれては
行に偲び
地を削り流れを変える



そうだ
その通り
結局のところ

ここに在らず
そこに在らず
故に
道もなく

くるしい
くるしくない
許せない
許してやろう
くるしい
くるしくはない
たすけてほしい
たすけてやろう
ここは寒い
ここは熱い
地獄だ
そうだここは天国だ

孤独だ

くるしい
くるしいな
助けてくれ
助けてやるよ
憎い
憎いかな
愛している
愛してはいない

つかれたか
そうか

ふと見上げると
水面が割れていた
その割れ目から
真っ白な いや 琥珀色の
泥のようなものが降ってくる
おそろしいことだ
これは 大変に 本当に おそろしいことだ

尻の穴を見せあっている醜い魚たちが
「我こそが我こそが」
とつぶやいている
早口で
早口で!
早口で早口で早口で!

は や く ち で!

喘ぎながら生貪る
白い珊瑚礁
息ができぬと任せては
深く深く 慰め合い
ああ 姦しく鳴り
跡形もなく

溶けて

波にさらわれ

この素晴らしい世界を隅々まで
あますところなく巡った後

また

堂々巡り

未来永劫

同じことの繰り返し

ひとりで泳ぐ
そびらに春を
旭を浴びて
泡に消える

そんな夢

なあ
いやになっちゃうよ
毎日毎日いやになっちゃうよ

彷徨うひと 先に昇る
信じたもの 愛したひと
碧落にあるべくとして

昇る ひと
それに続き
また 昇る ひと

千は百になり
百は十になり
十は一になり
一が積もり千となる

是まさに 堂々巡り

あぶれ厭ふ 深海と紛う
波折りの深さよ

深くて 暗い 泥の海の おはなし

天井はない
そして 底もない

故に

光差す道理など無く

ああ
並み居ている
見ろ あの長雨を

深海で降り続く琥珀色の
日陰にも似た彼の雨を

遍し日よ
光をくれ 誰か

曰く
「幼い頃 子守唄に 母が歌ってくれた歌があって
かわいらしい 迷い子の歌なのだけれど
今は 自分で 自分のために歌ってる」

毎日毎日 業火で焼かれていやになっちゃうよ

眺め遣る 迷い子
泡沫の消えては生る

思い出
もう今は思い出

昔の思い出
大切な思い出

―後日談―


足元が燃えている
熱くて 痛い 熱くて 息が出来ない

どうしようもない

空が凍っている
寒くて 痛い 寒くて 息が出来ない

どうしようもない

誰もが どうしようも! ない!
と ただ泣いている

ここは地獄だ
ここは天国だ
ここは天国さ
ここは地獄さ

信じたものの 虹の先には何もなく
振り返っても何もない

それでも

今日も明日も明後日も
来週も来月も来年も
十年先も
そして

尽きた その後も
ひとはきっと

泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで
泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで
泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで
泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで泳いで

嵶やかに

                          わらえる

愛のかたち 幸せのかたち

―前提として―


こんなとき
僕はあまり器用な人間ではないので
何も言うことが出来ない
僕はあまり器用な人間ではないので
何もすることが出来ない

しあわせになる方法など わかるはずがない
僕には何の力も 知恵も ないからである

今日も外は雨だ

もちろん 気の利いた
素敵で洒落た傘など持ってはいない

ところどころ 小さな穴のあいた
傘のようなかたちをしたものなら持っているけれど
せめて 僕なりの 精一杯の器用として
それは誰かに 大切なひとたちにあげることにしている

おそらくこれは 時として
いんちきな感情の類なのであろうが
器用というと 僕にはこれくらいしか思い浮かばない

そんな理由で
僕はいつもずぶぬれだ

ずぶぬれ どろだらけ

穴のあいた
傘のようなかたちをしたものをもらったひとも
めいわくなのかな とは思う
ありがためいわく というやつだ

結局 みんな

ずぶぬれ どろだらけ

わらえるだろう
とんだわらい話だ

でも
そんな姿を見て

愛したひとが泣いた
愛してくれたひとが泣いていた

僕はあまり器用な人間ではないので
何も言うことが出来なかったし
僕はあまり器用な人間ではないので
何もすることが出来なかった

このように
いつでも なにひとつ 思い通りにはいかないのだが
それでも いつでも
器用な人間ではないなりに
真に 本当に
心の底からこう思い 願っている

明日は 晴れると良いな




今日も雨だ
雨 のち 雨
ごくろうさま

「これで おしまい」

そっとしまう
浅く 深追いの指

轍歩く
叢雲踏むが如く
静かに
音も立てず

見慣れた端の明かりの跳んで
顔染め上げ
音響きもたてず崩れてしまう
この瓦礫の先には
何かあるのかな

何があるのかな

誰か 教えておくれよ


僕はあまり器用な人間じゃあないから
想像をすることが出来ないんだ

ただ

愛したひとが泣いた
愛してくれたひとが泣いていた

指と指 触れてむつんで
擦れあう度に
水位が増している

大空と遊び疲れてさ
落ちては 声上げて
弾けて 残るを仰ぐ

何が言えようか
こんな僕にいったい何が言えようか

さよならをひとつひとつに 願いをさむ
それぞれの夜漕ぎをへて 先に
手のひらに在る 立ち並んで
ゆらり のぼり雨

道行きのほどの灯りか 明け残り
不安げな顔して
さざ波の音にあわせて消えていく
降り注ぐものと心通わせて

ひとり傘 ひとり黙して ひとり旅

雨宿り
そうか 僕は
雨にもなれず
風にもなれずに
このまま消えていくのだろうな

僕はおそらく
そうやって消えていくのだろう
でも それが僕なのだからしようがない

僕は決して器用な人間ではないので
それが良いことなのか 良くないことなのか
まったく想像もつかないが
ただ ひとつ言えることは
それが僕なのだから しようがない ということだ

ひとが変わることはないからだ
ひとは決して変わらない
変えること自体 馬鹿馬鹿しいように思う
所詮 僕は僕でしかないからだ

今日も雨がきつい日だ
今日も風がきつい日だ
今日も きつい日だ

大空を泳ぎ疲れてさ
泣きながら落ちてくるのだもの
誰が何を言えようか

愛したひとが泣いていた
何も言わずに

外は雨

愛してくれたひとが泣いていた

今日も きっと 明日も雨

さよならはひとつひとつ 輪郭をなし
それぞれ 確かに 大地となって
手のひらの深みでくすぶる
澱みを受け止める

ささやかに光り 降り注ぐ素朴の
思い詫ぶ逆波
大切なひと 大切なものがあり
それぞれが水漬くことはない

結果 そうであったとしても
僕にとって
それは耐えることの出来ないことである

小さくなった寄る辺に
黙して願いの人形の
掲げてひとつ ひとつ

もつれるように 逃げるように消える
雲に結いつけて
追いかけて 背中の音 たたみおく


滑稽だろう

でも

そうすることで

明日は
明日こそは
晴れそうな気がしてさ

今日も雨
ずぶぬれ どろだらけ

明日は晴れると良いな


―前提として 追記―


今日も雨

雨のち雨

ずぶぬれ のち どろだらけ

ただ

雨なのだから しようがない
雨なのだから ずぶぬれ どろだらけ もしようがない

こんなとき
僕はあまり器用な人間ではないので 何も言えない
僕はあまり器用な人間ではないので 何も出来ない

ただ

愛したひとを悲しませてはいけない
愛してくれたひとを悲しませてはいけない

つばめ

波は今もこぼれているが

私は泣いてはいない

私は泣いてはいけない




雲が揺れる
色数多 溢れて川明り

並び止まる
指先の淡くありたる音

影の増すは
旋回し果てより来てすれ違う
残心と

見つめあって

見上げて礼のかかとに告げ
せせらぎと消えていく

連れ添い 日も忘れ 雲に辿る
帰し人想う風

ああ さらわれそうになる
あと少しだけ ねえ
このままいさせておくれよ

飛んでいく 光の点滅が ほら
折り重なって 道になる
絶えることなく
いつまでも いつまでも

澄み切って落ちる星の雅声
みじろぐこともなく 遍くものに問で笑う

遠きより 泰然で
近きほど 置き去りに
風は立つ

吹いては結ぶ
稜線の見目形 確かに

道をしへ断崖に 郷里並べ
ふくらとなり震える

ああ 然は然りながら
ねえ 零れてしまいそうさ
強がりの指 増すばかり

背を伸ばし 影は空の陽に憩う
道に標は在るか
そこに止まり木の縁の在るか

おやみ咲きぬ空 結ぶの遺した
時として長く 細れに延ばせ問いたる
確かなもの

縺れた路地の間を雛が翔けていく
ああ やにわに
ああ ふわりと
ねえ 音も無く澄んで溶けて
消えていく

音も無く

時に鳴き

一天を射すもの
したたかに風雪に耐え
頽れるものを従えていく
寂しげに

そのまま せがみ 相求め合う
そう 見下ろして街 さざれ 飛翔に疲れ
目前の雲に隠れて 声を上げて叫んでいる

遥かなり土煙
蛻の殻の隠し図る
時に引いては返す波のようさ

澄み切って行き交う羽の遺した
日の言葉は便り

それは

それぞれの空を泳ぐ
本当に 小さな音

このひと しりませんか

このひと しりませんか


このひと どこかへ 行ってしまって

このひと しりませんか

私の顔が どこかへ 行ってしまって

あの 私の顔 しりませんか

どこかへ 行ってしまって

どこかへ

舌切り念念

みてみろよ
うそつきばかり

みてみろよ
ぜんぶうそっぱち

ばれてんだよ
ばれてんのかな
ばれていませんよ
ばれていますよ
そうですか
そうですよ

うそっぱち うそっぱち

せなかに顔があって
股間に口がある

ばれてんだよ
わかってんだよ

隠してんじゃあねえよ
隠さないでくださいよ

くるんとまわって

ほらえがお

「あ! しんよう しても いいのかな!」

そんな かなしい おはなし




なでる
まわす

すると
たわんで

ひらく!
とじる!

ひとり
かこつ

「せめて いっぽ すすんでみたいのに」

ひらく
とじる
すぐに

「せめて ひとくち たべてみたいのに」

とける
きえる
すぐに

あたふたと過ぎし 日々
道に影 狼狽えて

何千年 何万年もそそくさと

ちゅんちゅん ちゅんちゅん
ちゅんちゅん ちゅんちゅん
ちゅんちゅんちゅんちゅん!

きょうのひともまた
項垂れて 殿

ひらく
とじる
ひらく
とじる
ひらく
とじる
そして
そして!

そしてそしてそして!

やはり!!

ああ ああ

きえてしまう

(でも! 実は!)

かわいらしいすずめの合唱団
「角ぐむ割れ目より 乾びた舌を

ちょきん!!

と切ると おくちはひらく」

なるほど!
実に簡単なことだったのだ!
非常に容易いことだったのだ!
なあんだ!
とんだわらいばなし!

とんだわらいばなし!!

まほろば教

探して
捜して

やっとの思いで 見つけたとしても
仮に 万一 仮に
百歩 千歩譲ったとして
仮に

もし仮に
幸運にも見つけることが出来たとしても

実は

世界は何も 変わらない
世界は何も 変わっていない

私も僕もお前さんも君も貴方も貴女も貴男も

貴様も

何も 変わらない

まるで 変わらない

「誇らしげである」

はっはっは




―早朝 遠く離れた場所にて―


まほらがあるらしい

凝視! 巍々と鎮座!

海女たち
「誇らしげであるー!」

海霧の底で へばりつくのだが 何も無い

―では 夜まで待とう!―


風のひと
「ひゅるひゅる ひゅるひゅる」

おだやかな夜だ
ううーん!

ことごとく出てはいるのだが…
ううーん…

凝視! 注視! 熟視! 看視!

小声の海女たち(怯えた様子である)
「おいそれとは見えぬぞ」

もの並べて遠くに見ゆる

「ずんどこ ずんどこ どこどこ どんどこ」

遠くで何より臆病な心音が聞こえる


〜一方その頃〜


おだやかな夜だ!

波のひと
「どどーん! ずんどこずんどこ!
ずんどこどこどん!」

嵐のひと
「びゅるる びゅるる!」

海女たち
「磯が伸びるー!」


「星の法典を作ってみたがどうか!?」

海女たち
「千珠で伸びるー!!」

海神様(の様であるが)
「誇らしげであーるー!!」

海神様(いや 鬼の類であった!)
「引きずりこむー!」

豁然とある宝全にて
深海を産み 昂然と反るのさ
                          鬼言集より抜粋

海女たちは歌う
「ひゅるひゅるひゅるひゅる」

風のひとも歌う
「びゅーびゅー! びゅるる!」

悲愁の流人 波濤に爪立つ!

焼け焦げた雲が互いの顔色を伺い
彼を見下ろしている!

風のひとも体をまっかにして歌う!
「びゅー! びゅーう! びゅーう!」


「よいだろうよいだろう!
では 灼熱の虹でいけるか!?」

海坂歪み 燃える

手 伸びる 手
鬼 喰らう 鬼

天心に!  一閃が! 海界に!

星が燃えている

海女たちは逆様になり 嗚咽している
海面より足を突き出し 懸命に月を蹴りあげている

同様に 彼の足も海面より突き出ている

時折 ものすごい速さで開脚をしているが
そのうち ぴくりとも動かなくなった


海は穏やかだ


―後の夜へ戻る―


破船よりまろび落ちる

海女たち
「よよと!」

新月の

海女たち
「思い詰めている」

長夜に迷ひてふらり

冒頭の女性
「ああーん! ああーん!」

余波にはらわた数多見て


〜或いはまたその一方で〜


頭垂れし男性は影在り

双子の解説者
「どうやら潮境にて 篝火をたいている様子」

うーん…

自分の顔を暖めている ようにも見えるのだが
ここからではよく見ることが出来ない

「波掛け衣かにもかくにも 燃やして」

     星の法典「もののあわれを知る心」より抜粋

うーん…
何かを呟いているようなのだが
ここからでは聞き取ることが出来ない!

残念だ


―前の夜へ戻る―


海が荒れ始めている
海女のひと曰く
またあんだら男がここを訪ねてきたらしい

風のひと
「ひゅるるるる〜」

嵐のひと
「びゅるるるる!」

風のひと(嵐のひとの真似をして)
「びゅるるるる!」

波のひと
「ずんどこどこ!」
海女のひと
「おはしまさふ!」

わたなかに火の道現るるより早く

鬼のひと
「神づまり!」

激怒している!
海神(偽物だが)は激怒している!
全身が蒼い色の炎で包まれている!


「海の法典を作ってみたがどうだ!」

海女たち
「おとろしや壊劫なりおとろしや!」

腸が凍る! 腸が燃える!


―星の法典より―


ああ えがみ月 せりあげし怒濤 渺茫と
底なしの欲得以てひかめき


―大宇宙の法典より―


宝前の忘れ 風むかひ 波むかへ あんだらよ


腹這いになり 魚の真似事をする海女たち
「かしこみ かしこみ…」

世を背き 夜 空に巣がく

   


怒!


恥辱のあまり正体を現した鬼たちが
彼を海の底へと引きずりこもうとした瞬間!

仏様(のようなひと)が暗澹たる中天より

すす すすす―

と舞い降り 凍りついた眼をこちらにむけ
千本ほどもある
ご立派な御手を差し出しているではないかー!

仰向けになり 大宇宙で踊る星々の真似事をする海女たち
「かしこみ かしこみ…」

海神様(どうやら「其のひと」と思われる)は
白目を剥いて口を大きくあけている

無様な鬼たちも同様に
白目を剥いて口を大きくあけている

臆病な海女たちもまた同様に
白目を剥いて口を大きくあけている


暗転



―干し魚のお面を被った男の切なるお伺い―

これより先に映し出された映像は早回しであり
また ふいに巻き戻され また中断されている
その上 何かはわからないが 映像全体を通して
赤い妙な滲みが非常に多く
まともに閲覧することは
困難なものとなっているのだ!
そこで ぜひ貴方が直接現地に赴き 体験し
そこで何が起こるのか
いやその時 何が起こっていたのか
あの男に何が起こったのか
是非私に伝えてほしい!
うーん! ううーん!!

―到達をして―


気がつくと 男は蒼色の砂漠にいた
小さな砂の山が
ぽつりぽつりと 点在しているのだが
そのうちひとつの 蒼い山の中腹にて
針に端座している

まさか まさか まさか ここが!


「やったぞ やったのだ!
とうとう私は辿り着いたのだー!」

おめでとう!
おめでとう名も無き青年よ!
貴殿はとうとう到達したのだ!
男は興奮のあまり
白目を剥いて口を大きくひらき
一心不乱に蒼い大地を摩擦している

蒼いひと
「すやすや すやすや」

赤いひと
「すやすや すやすや こくり こくり」

投げ首の蒼い珊瑚礁たちが難渋している
投げ首の赤い珊瑚礁たちが呻吟している

白いひと
「しんしん しんしん」

紅雪を廻らす影の遠く

男が時も忘れて魚の真似をしていると
真赭色の着物を着た女性(のようなひと)が
近づいてくる

舌の長い女性(のようなひと)
「■■■■■■」

うまく聞き取れない

男が端座しながら首をかしげていると

女性(のようなひと)は
自分の頭の皮膚をべろり!と剥ぎ取り
鉄と鉄が擦れ合うような 奇怪千万な声でこう詠った

顔の爛れたひと
「■■■■■」

途端 女の顔が 凍りつき 爆ぜ
億万の氷柱となって 男の眼球に突き刺さる

生死長夜だ!

大宇宙の中心へところげ落ちる男
「あ〜あ〜 あ〜 ああ ああ〜 ああ〜んああ〜ん」

男の顔は凍りつき 手からは炎が 足からは炎が
全身から炎が 業火が 焔が!

ひ ひ ひ が〜〜〜〜

そして口からは大量の火虫が吹き出している!

役者たちは変わらず 白目を剥いて
口を大きくあけている
其の口からは大量の火虫が吹き出ている

火虫は凍りつきながら 天へ昇り
大宇宙に燦然と輝く星々に繭を作り
億万の其れは大銀河を形成し
遍く生物待望の大海原として擬態し
またこの世界へと還ってくるのだ

ざんねんなことだ
もう還れない
かなしいことだ
もう戻れない

四劫の輪廻へようこそ青年よ!

はっはっは まほらなどなかった!
なんとも 愉快痛快な結末ではないか 青年よ
はっはっは 青年よ はっはっは
そうだそうだ そこの君たちも笑ってごらん


「はっはっは!」

そこの君たち
「わっはっは!」

私たち
「あっはっは!」

―篝火を焚き 祭祀するひと曰く―


「ああ まほらなどなかったのだ」


―砂漠へ戻る―


そうだ まほらなど なかったのだ

全てに等しく 無は語りかけ 有と誘い
また無に還る

それだけのことだ

ざんねんなことだ

浮夜の海往く
月掛かりの 過ぐ世とも 思ひ
涙の底惑いながら 躓き蹲りながら
欠け細る残月の波を舐めずり 漣に消ゆ

           大宇宙の法典「ひと」より抜粋

「ひゅるひゅるひゅるひゅる」

是 触れるべからず

―あとがき―


二つの頭の魚のお面を被った男
「先ほどはうんぬんかんぬんとお伺いをたてたが
勘のするどい私は
そのお伺い 遠慮をすることにするよ!
失敬! ははは!」

そうだ

真実に触れてしまった貴方もまた
あの男のように
もはや救われることはないだろう

永遠に
永遠に
永遠に
永遠に
永遠に
永遠に
永遠に
永遠に

永遠に救われない

ざんねんなことだ


                          つづく

行き過ぎて後に

あんたが悪いわけじゃあないが
ららららら

そうですか

あんたが憎いわけじゃあないが
るるるるる

そうですか

どうしようもない
しようがない

そうだ

あんたらが悪いわけじゃあない




淡く 身辺で行き交う
あきつ震えてる わらしべの空

背丈ほどある稲
ふたりだけの場所さ

ゆらゆら 照れ笑うふたりなでる 金の散るは
ひゅうるり ひゅるり 風とかけっこさ

愛して 愛されて 明日見え隠れ

からたちの棘 指切り あをあを 両手でげんまん
きれいなお花が咲くころ
お迎えにいくぞ ずっとまってる

愛して 愛されて 光見え隠れ

枯るるもの また 青むもの
日のしずけさを待ち 踊ってる

果てで思いをり

そうだそうだ いいぞ

彼は本日もまた 精悍
あらあら ご立派ですよ 竹馬上手

転ぶ余地なく 並べられて 将棋倒し待つ
遺訓のためだから

その調子

ぐらぐら ふきだまる落葉越え すすめ すすめ
ひゅうるり ひゅるり ひとりかけっこさ

「見てろよ! そう! 希望に満ちた明日のため!」

小脇に夢抱え 日差しまとい弾けて跳んで
炎天の上へ上へと継ぐ足場の上 這いつくばって

勇猛な兵たりし日々 蟻の群れ
迷子の行く先 にわたずみ
浮き沈み自在さ ほら泳げ

風わたるたびに 音割れて空ろ

素晴らしいこの世界で見つけた 素敵な思い出

同じ歩幅の合唱団「ららら るるる」

そうさ いくぞ すぐに いくぞ

さあ すすめ すすめ
陽炎を積み 残し行く背中に 笑顔が突き刺さる

ゆびきり あかあか 両手でげんまん
並んであきつは歌うよ

ららら るるる

からたちの刺 雲に突き刺さって
明日の言葉伝えてゆきぬ 間 喧騒が埋めて

鳴り止まぬ耳鳴りの中
花びら五枚 ゆびきりげんまん
腐った笑みを浮かべながら
ひとりぼっちでくたばって

ららららら

遠くで大きな音がしている
近くで大きな音がしている

いち に さん し ご
あなたとゆびきりげんまん
わたしとゆびきりげんまん
みんなでゆびきりげんまん

こんなはずじゃあなかったか
こんなはずじゃあなかった
おまえはただしいか

わたしはただしい

そうだ おまえはただしい

だから すすむのだ

すすめ すすめ それ すすめ

ほしふりの果て 極東史記より

至福の川

紡いだ数だけ

生きた証として

衒うのがよい

徒渉るべく暁に




降り積もった時の
故も無く凪ぎ

手の少しはゆるめ
深く深呼吸
恩赦の如く

早口の星の語らいは
続きのせがんで 小止み無く
今の時を伝えて渡る

指重ねて
彼は誰の終を塞ぐ

どこまで続いているのか
見知らぬ碧の深さよ
あなたの生まれた街を歩き
だんまりの星を拾って
集めて思い出の結ぶ
遮るものなき海と

見て
ひとつはあなた
ひとつはあなたが愛していたひと

通りすぎて舞う
脆き背にしながら

舌出し緩ぶ
つぼみ待ちぼうけ

消え行く色の
種に託して放すは迷子
ままごとのようさ
止まり また立ち止まる静けさ

還っていくをと
星が廻りはじめる
極東の果てで

回るよ 今を置き去りに
散りてなお 咲きたるもの
高きより流れて
低きより止めどなく跳ねては飛ぶ

飛んでいく この街を包む
ねえ 明日は会えるかな
見上げてとおせんぼ
凍み指に息吐き歩いていく

手を繋いで
たてり 雪解けは跫音
跡形無くとも
生きた証として
徒渡るべく暁に

早口の星は語らいを続けている
互いに手を繋ぎ 迷いながら 惑いながら

それぞれに生まれ
それぞれに瞬き
そして
それぞれに消えていく

私は今も
極東の果てを歩いている

虚仮虚仮として けしからず

しあわせだなあ
しあわせだなあ
しあわせだなあ
しあわせだなあ

おくちにだしていうと

しあわせになれるみたい

しあわせだなあ
しあわせだなあ
しあわせだなあ
しあわせだなあ

わたしは

しあわせ

だなあ

其曰く 教外別伝をして

黙して 庭に 跳躍す
見誤る べからず


                          氷底にて

生きてこそ

最初にいっておくが
おそらく これより先に続くお話に意味はない

正しくは

このお話にも だ

わたしに 伝えたいことなど まるで 何もない

わたしが 姿を変え形を変え
一連のものがたりを通して
これまでに伝えてきた
そして これからここへ記す言葉や思考思想等々

これらには何の意味もないし価値もない

無意味 だ
無価値 だ

先に無 後に無

だが

生きてこそ

それでこそ




―前編―


千変し 万化し 枯れてなお
ちぎれちぎれもたかだかと
その川聊かの瑕瑾なく
すりすりと擦れ合ふ
すりすり すりすり
枯れてなお 枯れてなお

この川の どこへ行く
いづくより 生まれ いづこ

ねんねこに沈み 弾け飛び ぴゅっぴゅ

ぴゅっぴゅ ぴゅっぴゅ

蝉のような鼻をしたおかあさん
「このひとでなし!」

蝉のような口をしたおじいさん
「あいや おかしな なあ」

ぷんぷん! ぷんぷん!

蝉のような耳をしたおばあさん
「わあ ちんちくりん!」

ぷんぷんぷん!

蝉のような顔をしたおとうさん(代表者でもある)
「あいや みにくいもの におう におうぞ」

遮るもの無き名月 はんなり
立派なおべべに赤帯垂らして
恥じらうことなく山から川へと
ころころ 転んで
みんみんの声 届けてくれたのさ

ぴょんぴょん跳んではそうぞうしい(後ろ前である!)が
ぴんとひらめいた かしこい彼は言う

「大きな声ではいえないけれど
小さな声では聞こえませんの!」

それを聞いていた 彼の歩幅にあわせて
ぴょんぴょんと飛びまわる かわいらしい生き物たち
「わっはっは! あっはっは!
なんとも機知に富んだ 物言いであることか!」

ここには数多の
動物のような姿をしたものたちがいるようだ

うさぎのような長い耳を持つ ひと がいる
かめのような固い甲羅を持つ ひと がいる
たぬきのような挙動を見せる
抜き差しならない ひと もいる
きつねのような 実に妖艶な ひと もいる
大きな 象のような
ついぞない鼻をもった ひと までもがここにいるのだ
なんともはや! すばらしい!

皆一様に跳ねまわっている
実にほほえましい光景だ!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような鼻をしたおかあさん
「あのひとでなし!」

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような口をしたおじいさん
「あいや 不潔な なあ」

ぷんぷん! ぷんぷん!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような耳をしたおばあさん
「うそつきぼうや!」

ぷんぷんぷん!

その素敵な会合を 木の上より俯瞰する
蝉のような顔をしたおとうさん(代表者でもあるのだ)
「あいや あな おそろしや」

こうして毎日
呼吸も忘れて 身とも影ともつかずが重畳
そこから わんさと 子を積む 山車出て
厳粛に おごそかに 真っ赤な橋脚 垂直に

のぼる!!

赤色の肌をちらりとみせる 立派な髭をもつ聖人
「いいかい諸君よ わたしは高きを恐れず進み
汚いものをなくそうと思うのだが

どうか!」

小さなつぶねたち
「おー―!」

自身の立派な象徴を直視しながら
蜃気楼のような背中を震わせる聖人
「う う ううーん!」

どうやら彼はもう一声ほしいようである

「ど ど どど どどど どどどど

どうか!!」

大きなつぶねたち
「おおー―――!!!」

彼らの賛同に 聖人様はひどくご満悦なようで
仰向けになりながら
お店頭様にむけて黄ばんだ体液を吐き
こう叫んでいる

「おい貴様ら!
無価値で無様で滑稽な蝉どもめが!
見ているか!
やったぞやったぞうやったのだ!
とうとう私はやったのだー!」

彼の顔面は自身で吐いた
黄ばんだお勤めに覆われている
彼はどうやら ついにやり遂げたらしい

おめでとう!

おめでとう!
赤い肌を見せる名も無き聖人よ!
貴殿はとうとうやったのだ!!

私のような下々の者には
到底理解できない類の偉業ではあるが
彼はおそらく何かをやりとげたのであろう

おめでとう!


玉の緒溜まり 鳴き響もす

ころり ころり ころころ ころり

何か 鉄をこすりあわせた音のような
不愉快な音が聞こえる

前から後ろから聞こえる

天と地の和解の証なのだろう
そう思いたい

精一杯だ 皆一生懸命だ

誰が為に 誰の為に

ここは何処だ
お前は誰だ
お前はどこに立っている

件のおかあさん
「うーん」

件のおじいさん
「ううーん」

件のおばあさん
「うーんうーん」

件のおとうさん(かつて代表者であった)
「ううーん ううーん ううーん」

苦しんでいる
何故かはわからない
(本当は知っているのだが 教えることは出来ない)
苦しんでいる

遮るもの無き少年 ころころ
立派なおべべに赤帯垂らして
恥じらうことなく 袖から袖へと
ころころ ころころ ころころ ころころ
ころころ ころころ ころころ ころころ
ころころ ころころ ころころ ころころ

後ろ前だが かしこい聖人が言う
「大きな声ではいえないけれど
小さな声では聞こえませんな!」


「わははは! ちがいないちがいない!
君は実に趣き深いなあ!」

くらがりの中で蠢くひかりをあつめて
こぼれて あつめて

子を棄つる薮は在れど 身を捨つる薮は無し


―そうこうしているうちにも―


月蝕は刻々とすすんでいる
夜蝉が鳴いている
死にたくはなしと鳴き叫んでいる

屍には落葉が積もり
川となり 海となる
すべては千変し 万化し
その輪郭をぼかしながら
天高く透く一片の雲に過ぎず

呪われた 鬼の子供と呼ばれ
篝火の影絵をなりて
唾を吐かれて 泥をなげられ
それでも
諸手をかざして
蒼天の縷々を綴る

望まれずに生まれて
愛を知らず枯れていく
ああ 愛を
誰か彼に愛を

いろいろなものに接吻をしながら
赤い背中をした彼は言う
「言われていたのだ! 言われていたのだ! 言われて!
彼は呪われた子であり!
全くもって■■■■■■である!

実際

彼に価値はない!
彼には何の価値もない!
彼の存在を喜ぶ者もいない!
彼は圧倒的にひとりだ!
彼の周りには誰もいない!
彼にはまるで希望がない!
微塵の可能性もない!

そうだ彼は無意味だ!

無意味で無価値で無様で滑稽だ!

絶望的だ!

本当にわらえるだろう!
おわらいぐさだ おわらいぐさ!
わらえるぞ あいつを見てみろ
みんな! 見ろ! みんな! あやつを見てみろ!
わらえるぞ わっはっは ああ わらえる
わらえるわらえるわらえてしかたがない」

誰のことを指しているのだろうか
皆 首を三百六十度 こてこてと傾けてはみるものの
ちいとも想像がつかない
とにかく騒ぎに便乗することにしたようだ

うしろまえの動物たち
「しかたないしかたない! しかたがない!」

皆嬉しそうだ

「そうだろう!」

全身が焼けただれた男
「どうだ!それが私だ!」

真実を知り ひどく驚いた役者たち
「ぎゃあ! ぎゃふん! ぴゅっぴゅ!」

皆の口からは大量の
琥珀色の火虫が吹き出している
のたうちまわっている
喉を掻きむしっている
顔の大部分は凍りつき 崩れ落ち 剥がれ落ち
背中は炎に包まれている

かなしいことだ

もう誰も救われない

おめでとう! おめでとう彼のひと!
してやったり! だ!

的然として日の下
目を開く ひと
しんがりで吊る ひと
正覚とすがる ひと

我執に喰われ 枯れていく 其のひと

そうだ
これこそが真実だ
そうだ まさに真理

気がつくと誰もいない
何者もいない
あれほどの騒ぎが嘘のようだ

ただ
夜空の中心で凍りつく
透明な川の 純朴なせせらぎだけが聞こえる

全ては夢だった
全て夢の中の出来事

ほんとうに かなしいことだ

千変し 万化し 枯れてなお
ちぎれちぎれもたかだかと
その川聊かの瑕瑾なく
すりすりと擦れ合ふ
すりすり すりすり
枯れてなお 枯れてなお
枯れてもなお

そこに何の意味があろうおか

私にはわからない
誰にもわからない
もうここには誰もいない


                     天の庭 樹のひと曰く


―後編 本編―


おぼろげに朧の橋を渡っていると
宙を呼ぶ声が聞こえる

受戒せんと数多の落葉たちの

「宿報である」と言う叫びだ

その声は次第に験仏の代弁として
眼下 月光あまねし大河を ひた流れる現未と結び
灼熱の虹へと姿を変えていく

「いずくより ああ 生まれて いずこ」


―天の庭へ―


天つ日の不請の清く
彼のひとの間をすり抜ける
あまりにも まぶしすぎて
誰も 気がつくことは無い

かなしいことだ
ほんとうに
おそろしいことだ
ほんとうに

暗澹たる中天を跨ぐ灼熱の梯子に
群がる落葉たちが口々に叫んでいる

「枯れ■■■■! 朽ち■■■■!」

呪われた鬼の子供は澱み
日輪の大つぶに揺れながら
流れ木の鎖をれかへる
塞きる六識の縷々と綴り

今日も生きてこそ
明日も生きてこそ
枯れてなお
影の地につきささる
灼熱のたばしり朽ちてなお

それでも
生きてこそ

生きてこそ
なにくそ こなくそ
生きてこそ
それでこそ

今日もまた 生きてこそ
一秒先を生きてこそ
二秒先を生きてこそ
三秒先を生きてこそ
今日も明日も明後日も来週も来月も来年も
生きてこそ

「そうだ そうだ!
俺はお前を愛してやるぞ!
俺だけはお前を愛してやるぞ!」


                   天の庭にて 赤い背中の男曰く

白きを廻り 黒きの巡り

かならず 朝が来て

かならず 夜が来る

それだけのことだ




ささやかに生きて
ささやかに消えていく仄かの曰く

転がせば ころり
胡座の中

洗ってもこすっても とれない
黒く白く まだらのここり

ここに

幸せは在るのかな
光は在るのかな
希望は在るのかな
未来は在るのかな

そんなことを思いながら

明日こそ目が覚めませんように

そんなことを思いながら

目を閉じて
骨だけの 夜の諠を渡り
喉焼いて空の静かを汚し
来し方に還る

あまりにも白き
にぎやかな風の渡るを見届けぬ
さらさらと鳴りをる小夜の重ねて
ひとり消ゆ

幸せの在処を教えておくれ
どこにあるのかな
だれかがくれるのかな

教えておくれ

また明けて
白化けに 風までも
行く先を告げる

あんなにも 手繰し掛けて
悲しいことだ

あと何をうしなう
心の響きか
慙愧の在処か
かくも脆き先に

今日も

ひと ひと ひと

ひとの群れ

ここりのつき

みんな ここにいる
みんな 泣いている
みんな 赤い背中をしている

みんな ここにいるのに

かなしいことだ


                   天の庭にて


天庭表紙

何度も言うが
何度も何度も言うが
手を変え 品を変え
様々な事例を挙げ
幾度となく言うが

光など無い
存在しない
幸せなど無い
幻想だ

孤独が良い
今までも これからも
孤独なのが良い

希望をもってはいけない

お前は未来永劫ひとり
死んでもひとり
生きてもひとり

永遠にひとりだ

誰も信用してはいけない
愛など存在しない

すべてまやかしだ
幻想だ
くだらないことだ
騙されてはいけない
これが現実だ

例外は無い
これが現実で真実だ

どうしようもない
どうしようもないことだ

いいか

小さなものも
大きなものも



必ず

救われない

絶望的だ


          終わり

天庭 裏表紙

生も死も 残照比で 飲み込めり

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